第1節 イントロダクション

インターネット上の商取引は、電子決済を処理する際に信頼できる第三者機関である金融機関に依存しています。

取引システム自体はほとんどの取引で十分に機能しますが、依然として「取引者同士の信頼の基づいた取引」に関しては問題があります。

金融機関は、取引上の諍いなどの仲介を避けることができません。そのため、完全に不可逆的(※1)な取引は不可能(※2)です。

※1 不可逆的取引とは:もとに戻すことができない取引のこと。要は支払いをキャンセルできない取引のこと
※2 金融機関が間に入ると、利用者間でいざこざが発生した場合、仲裁する義務があるので、完全に不可逆的な取引を行えないという意味

当然ながら、金融機関が仲介するとコストがかかるため(手数料など)、取引コストが増加します。しまいには取引額の下限を設けて少額取引を制限せざるを得なくなったりします。
金融機関が仲介すると不可逆的な支払いで不可逆的なサービスを受けるという枠組みを実現できず、多大なコストが生じてしまいます。

一方、可逆的な取引(※3)の場合は、互いに信頼できる相手とでなければ成り立たちません。そのため、販売側は顧客のことをより深く知ろうとし、本来必要ではないような情報まで要求して、顧客を苛立たせます。
しかし結局はそのような対策を立てても、詐欺が発生することは回避できません。

※3 取引相手同士でいざこざが起きた時、支払いをキャンセルできるような取引のこと

こういったコストや、オンライン上での支払いが確実に行われるかわからないという問題は、世に出回っている物理的な紙幣や通貨を利用することで解決可能です。

ですが、電子取引においては、第三者信頼機関を設けること以外の解決策はありません。

必要なのは、第三者機関が無くとも二者が取引を行えることです。
そのためには、取引者同士に信頼は無くても良いので、暗号技術に基づいた支払いシステムさえあれば良いのです。

計算理論に基づいた不可逆的な計算結果を根拠として取引を行えば、販売者を詐欺者(支払いしないでモノやサービスだけ騙しとる人)から守り、預託機構(CoinCheck, Zaifとか)と連携すれば顧客を守ることが可能になります。

本論文で提案する方法によって、取引履歴に残された時刻を計算理論で検証すれば、通貨を多重には使用されなくなります。

そのために、P2P分散タイムスタンプサーバを利用します。善良なノード群が、攻撃者(取引履歴を改ざんしたいハッカーなど)のノード群よりもCPU能力で上回っていれば、このシステムはセキュリティ的に安全です。